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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)1192号 判決 1985年9月11日

本店所在地

東京都江戸川区北葛西二丁目一一番四号

商号

株式会社三上土木

右代表者代表取締役

三上政夫

本籍

東京都江戸川区東葛西五丁目八番

住居

右同町八番一九号

会社役員

三上政夫

昭和一〇年九月二日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社三上土木を罰金一五〇〇万円に、被告人三上政夫を徴役一〇月にそれぞれ処する。

被告人三上政夫に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社三上土木(以下被告会社という。)は、頭書地に本店を置き、残土運搬等の土木工事の請負等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人三上政夫は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人三上は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注加工費・修繕費・残土処理費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六九二二万六一三二円(別紙(1)修正損益計算書及びその内訳としての修正工事運搬原価報告書参照)あったのにかかわらず、同五六年七月三〇日東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一四〇七万八二五一円でこれに対する法人税額が四九二万一七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第八一一号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二八〇八万三八〇〇円と右申告税額との差額二三一六万二一〇〇円(別紙(3)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九三一九万五四一一円(別紙(2)修正損益計算書及びその内訳としての修正工事運搬原価報告書参照)あったのにかかわらず、同五七年七月二八日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一四〇八万六七四五円でこれに対する法人税額が四九二万一三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三八一四万七〇〇〇円と右申告税額との差額三三二二万五七〇〇円(別紙(3)ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

(1)  当公判廷における供述

(2)  検察官に対する供述調書六通

一  鈴木妙子(二通)、米澤拓男、三浦良昭及び太田孝康の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏大蔵事務官大関信邦作成の次の調査書

(1)  工事運搬原価調査書

(2)  福利厚生費(工事運搬原価)調査書

(3)  外注費(工事運搬原価)調査書

(4)  残土処理券(工事運搬原価)調査書

(5)  給料手当調査書

(6)  福利厚生費調査書

(7)  租税公課調査書

(8)  交際接待費調査書

(9)  諸会費調査書

(10)  受取利息調査書

(11)  交際費損金不算入額調査書

(12)  役員賞与損金不算入額調査書

一  登記官山本陽二郎作成の登記簿謄本四通

一  押収してある給与支払内訳明細書等三綴(昭和六〇年押第八一一号の3ないし5)

判事第一の事実につき

一  前記収税官吏作成の修繕費(工事運搬原価)調査書及び事業税認定損調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の1)

判示第二の事実につき

一  前記収税官吏作成の雑費調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

(争点についての判断)

弁護人は、本件公訴事実のうち被告会社の取締役米澤拓男、同三上正則に対し、昭和五六年五月期に支給した金四〇三万三〇〇〇円及び同五七年五月期に支給した金四五〇万四〇〇〇円については、両名に対する給与(報酬)として支給されたものであり、かりにこれが給与に該当せず、賞与に該当するものとしても同人らはいわゆる使用人兼務役員と認められるから、右金員は使用人に対する賞与として損金算入されるべきものであり、いずれにせよ各年度の所得額から控除されるべきであると主張するものと解される。

そこで判断するに、前掲各証拠とくに被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する各供述調書、鈴木妙子、米澤拓男及び三浦良昭の検察官に対する各供述調書、収税官吏作成の外注費調査書、被告会社の登記簿謄本、押収してある法人税確定申告書二袋並びに給与支払内訳明細書等三綴によれば、被告会社は、昭和四〇年一一月二五日設立され、当初は被告人三上政夫のほか川畑俊夫及び高橋孝一が取締役であったが、同四九年一二月以降右川畑及び高橋に代り米澤拓男及び三上政則が取締役に就任し今日に至っていること、なお被告会社の監査役は同四九年一二月以降石岡道春であったが、同五九年八月以降三浦良昭が就任し今日に至っていること、被告会社はもともと被告人三上が個人で始めた仕事を昭和四〇年に会社組織にしたものの、会社経営及び営業に関する重要事項である従業員の採用、給料及び賞与額の決定、資金調達、取引銀行との接渉、受注先や下請業者との交渉等は、ほとんど被告人三上が独力で行っており、三上政則、米澤拓男の両名(以下たんに両名という。)は、同四二年ないし四三年ころ被告会社に入社したが、以来ほとんど常に工事現場において現場監督的な仕事に従事しており会社の経営に参画することはほとんどなかったことがそれぞれ認められる。右によれば、両名は、被告会社の取締役ではあるが、同時に被告会社の従業者たる職務に従事していたものであることは明らかである。ところで被告会社の給与支払内訳明細書に基づき同会社の右両名に対する給与の支給状況をみると、両名は昭和五五年一月以降同五七年一二月まで一貫して基本給一五万円のほか物価手当及び勤続手当(これらは少しずつ増額されている)を加えた一定額の金員を毎月定期的に支給されていることが明らかであり、これらは被告会社の他の従業員と比較しても高額であり、右両名の前記職務内容や被告会社に対する貢献度なども加味されたものとして同人らの職務に対する報酬すなわち給与であることは明らかである。また、被告会社は右両名に対し昭和五六年七月四日と同年一二月二六日の二回に亘り、各三五万円を賞与として支給しているところ、右賞与はその支給の時期・金額他の従業員に対する賞与支給額の内容等からみて右両名の使用人たる職務に関する賞与として支給されたものと認められ、現に被告会社は、右両名に対する賞与分を昭和五七年五月期の損金として計上しているのである。

ところで、被告会社は昭和五六年五月期において、同年二月二〇日、同年三月二〇日及び同年四月二〇日の三回にわたり、米澤拓男に対し合計二一三万五〇〇〇円を、三上政則に対し合計一八九万八〇〇〇円を、また同五七年五月期において、同年一月二〇日、同年二月二〇日及び同年三月二〇日の三回にわたり右米澤に対し合計二二〇万円を、右三上に対し合計二三〇万四〇〇〇円(以下これらを本件金員という。)を、いずれも米建工業または三和重機工業という架空の外注先への支払いに仮装して支給したことが明らかであるところ、前掲証拠によれば、これらは被告人三上が、被告会社の決算期の数か月前になって当期利益が出る見込みが確実となった段階において、右両名の会社に対する功績に報いるため、被告会社の利益を分配してやろうとの配慮から支給したものであることが明らかである。そして、被告会社の従業員のうち右両名とほぼ同様の勤務年数及び職務内容を有する三浦良昭にも、右両名と同時に、同様の方法で合計四二二万三〇〇〇円が支給されているが、それ以外に右時期に金員を支給された従業員はいない。

右によれば、両名に対する本件金員は、その支給時期・金額及び支給の趣旨に徴し、臨時的な報酬たる賞与であることは明らかであるのみならず、右両名が前記のように昭和五七年五月期において、他の従業員と同様二回の賞与の支給を受けていることにも徴すると、右の賞与は株主総会の決議を経たものではないが、右両名の取締役たる地位に着眼した利益処分たる実質を持つものと評価しうる。もっとも、被告会社の役員ではない三浦良昭が、右両名と同時に同様の金員の支給を受けたことは前記のとおりであるが、同人は、被告会社の従業員とはいってもその職歴、職務内容等において両名と差異がなく、同五七年ころから対外的には取締役を名乗ることも許されていたというのであるから、同人の被告会社における地位は、本件当時役員ではないが、役員に準ずるものとして他の従業員とは異なる立場にあったことは明らかであり、したがって、同人に対しても右の賞与が支給され、それが従業員賞与と評価すべきものであるからといって、被告会社の取締役である両名に対する賞与が、役員賞与の実質を持つことを否定すべき事情とはならないのである。

以上によれば、右米澤ら両名に対する前記賞与は簿外の役員賞与にほかならないから、それぞれ支給した事業年度における被告会社の所得の計算上これを損金に算入すべきものでないことは明らかであるが、かりに右賞与が両名の使用人としての職務に関する賞与であると考えても以下の理由により、右賞与を被告会社の損金に算入することはできないものである。すなわち、

法人税法三五条二項は、使用人兼務役員に対し、使用人たる職務に対する賞与を他の使用人に対する賞与の支給時期に支給する場合において、その賞与分を損金経理したときは、相当額につき損金に算入することを認めているが、同条三項は、使用人に対する賞与であっても確定決算において、利益又は剰余金の処分による経理をしたときは損金に算入しないと規定するのであって、これらの規定の趣旨を総合すると、元来使用人に対する賞与は職務に対する報酬ではあっても同時に株主に帰属すべき利益の処分たる実質をも併せ持つことが少なくないことから、これを損金として計上するか利益処分とするかを第一次的に法人の選択にかからしめると共に、法人の恣意による利益圧縮を防止するため、損金算入の限度を定めたものと解される。したがって、三五条二項にいう「損金経理をしたとき」とは、使用人兼務役員に支給した賞与につき従業員賞与として損金経理をした場合をいうのであって、本件のように外注費に仮装して簿外で賞与を支給する場合のごときは、右の損金経理にあたらないといわなければならない。

以上の次第であるから、いずれにせよ弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、同条二項を適用したうえ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪につき定めたる罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金一五〇〇万円に処する。被告人の判示各使為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、後記情状を考慮し、同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件は、主として建築工事現場からでる残土の運搬を請負う被告会社において、その代表取締役である被告人三上政夫が、外注費の架空・水増計上、修繕費の水増計上、残土処理費の架空計上等の方法により、昭和五六年五月期において五五〇〇万円余の所得を秘匿し、また同五七年五月期において七九〇〇万円余の所得を秘匿し、二期合計五六三八万円余の法人税を免れたという事案であり、正規税額に対するほ脱割合もそれぞれ八二パーセント強に達しており、被告人の納税意識は低いといわなければならない。

被告会社は、被告人三上がダンプカーの運転手から発起して独力で築き上げた会社であり、大手建設業者である飛島建設の下請となって業績が着実に上向くようになったが、被告人としては建設業界の好不況の波が激しいところから事業の基盤を固めるため、短期間に本件のような高額の脱税を企画したもので、動機においてとくに斟酌すべきものはなく、その手段・方法も架空のダンプカー等の傭車業者名義の請求書、領収書をみずから作成したり、取引先と通謀して架空・水増の請求書、領収書を作成させるなどしており、巧妙かつ悪質といわなければならない。

しかしながら、被告会社は、被告人三上が営々として築き上げて来た結果本件対象年度では判示のように利益を出しているが、このように業績が上向いたのは、本件対象年度の前年ころからであって、被告会社は、もともと従業員に対し賞与すら支給していなかったが、昭和五五年五月期において、期末近くになって利益がでると予想されたことから前記米澤ら三名に簿外賞与を支給するようになったもので、同五六年五月期及び五七年五月期における米澤ら二名に対する簿外役員賞与の支給が本件ほ脱所得の内容となっているのであるが、右米澤ら二名は使用人兼務役員であるから、その賞与の一部については適法に損金に計上する方法も採り得なくはなかったと認められるのであり、したがって、右部分についてはとくに悪質な脱税とはいい得ないものである。そして、被告人は、本件の発覚以来一貫して素直に犯行を認め、今後再びあやまちを犯さないことを誓っているのみならず、修正申告のうえ、本税は全額納付済みであり、重加算税等についても一部を納付し、残余についても近い将来に納付を完了する予定であること、被告会社の脱税歴は前記のとおり比較的浅く、本件の摘発に伴い、被告会社は、過去の脱税による蓄積分を含めてその利益の大半を納税義務の履行のため吐き出さなければならなくなっていること、被告人には、昭和三一年に業務上過失傷害罪により罰金刑に処せられた前科があるものの、ほかに前科・前歴はないことなど被告人のために斟酌すべき事情も認められるので、被告会社に対しては主文掲記の罰金刑に処し、被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金一八〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)

出席検察官 櫻井浩

弁護人 佐々木務

(裁判官 小泉祐康)

別紙(1) 修正損益計算書

株式会社三上土木

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

<省略>

<省略>

修正工事運搬原価報告書

株式会社三上土木

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

<省略>

別紙(2) 修正損益計算書

株式会社三上土木

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

<省略>

修正製造原価報告書

株式会社三上土木

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

別紙(3) ほ脱税額計算書(単位:円)

会社名(株)三上土木

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

<省略>

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

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